アピアランスケアとは、医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケアのことを言います。具体的な方法などを詳しく解説します。
アピアランスケア(外見の変化に対するケア)とは
アピアランスケアの方法
乳がん、婦人科がん患者のアピアランスケア
アピアランスケア(外見の変化に対するケア)とは
がん患者さんを取り巻く背景
がん治療による外見の変化に対する患者さんの思い
これまでがんにかかったら、患者さんはがんを克服するために治療に専念すべきであると考え、患者さんの希望があっても「伝えてよいのか分からない」と我慢しがちでした。しかし、がん治療の進歩によってがんとともに生活していく期間が長くなり、患者さんは仕事や家庭の役割など社会とかかわりながら治療を継続することが増えています。その中で、患者さんの生活や思いを考慮したうえで、患者さんと医師が一緒に治療方法を考える動きが広がっています。
患者さんが治療前と変わらない生活を続けたいと希望したとき、特に外見の変化は苦痛を感じやすく、アピアランスケアに対するニーズが高まってきました。
主な外見の変化1)
手術・放射線療法・薬物療法などのがん治療によって、脱毛、皮膚や爪の変化、身体の一部喪失などの短期的なものから永続的なものまで、さまざまな外見の変化が生じます。乳がんや婦人科がん(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんなど)では以下のような外見の変化が起こることが多いです。
乳がんと婦人科がんの主な外見の変化
外見の変化は単に身体の痛みではなく、自己イメージにかかわる心理的問題や他の人との間で生じる社会的問題もかかわっているため、患者さんにとって強い苦痛を感じる要因の一つだと考えられます。
アピアランスケアとは
アピアランスケアにおいて大切なこと3)
アピアランスケアによって、外見の症状だけでなく、自分らしさが喪失するという心理的問題や、他の人とのかかわりに影響を及ぼすかもしれないという社会的問題を解決して、患者さん自身がその人らしく生き生きと過ごせることが大切です。患者さんの悩みが単に外見の症状だけなのか、または他に要因はないかを患者さん自身で整理してみることも自分に合うアピアランスケアを見つけるきっかけとなります。アピアランスケアをきっかけに、がん患者さんの心理的な負担が軽減され、安心して社会生活を送れることが望まれます。
ここでは、さまざまな外見の変化に対する対処方法の例をご紹介します。外見の変化による苦痛を軽減する方法の一つとして参考になれば幸いです。
アピアランスケアの方法
脱毛(毛髪、眉毛、まつ毛)
脱毛はずっと続くの?4)
抗がん剤の種類により異なりますが、脱毛は従来の抗がん剤(化学療法剤)で起こりやすいとされています。
毛髪の脱毛は抗がん剤の投与開始1~3週間後に生じることが多いです。通常、脱毛は一過性であり、治療終了後3~6ヵ月程度で発毛がみられますが、髪質が治療前と異なることがあります。そして、8ヵ月~1年程度で回復するといわれています。治療が開始されてからすぐに脱毛が生じるわけではありません。
毛髪の脱毛への対処方法の例5)
まずは、使用する薬剤は脱毛が起こりやすい薬剤なのかを知り、脱毛しやすい場合は脱毛・再発毛のタイミングやケアするために必要な備品を知ることから始めましょう。
必ずしもウィッグや帽子などで脱毛対策をしなければならないわけではありません。どちらにしても、患者さんがその人らしく他の人とかかわれることが大切です。
Point
治療方針が決まったら準備を始めましょう!
具体的な備品だけでなく、脱毛・再発毛のタイミングなどの情報も知っておきましょう。
Point
ウィッグは慌てて購入する必要はありません。自分に合った価格・着け心地・スタイルで選びましょう!
ウィッグ以外にも帽子を使う、つけ毛を使うなどのいろいろな方法があるため、医療関係者に相談するとよいでしょう。
眉毛、まつ毛の脱毛への対処方法の例6)
眉毛は感情を伝える重要なパーツであり、他の人とコミュニケーションするときにも気になる部分だと思います。治療前と同じ状態に戻らなくても、脱毛を目立たないようにするだけで気にせず今まで通りコミュニケーションできるでしょう。
きれいな目元にしようとデザイン性を重視せず、相手にあなたらしい印象を与えられる目元となっているか、相手の距離からどう見えるかという全体の印象を確認しましょう。
皮膚の変化
正しいスキンケア10)
皮膚の変化に対するスキンケアのポイントは、「保清(皮膚を清潔に保つ)」「保湿(皮膚の乾燥を防ぐ)」「保護(皮膚を傷つけない)」です。
特別なスキンケアは必要なく、抗がん剤治療前から続けているスキンケアがあれば、それを継続しましょう。スキンケアに不安がある場合は、現在のスキンケアが正しい方法かを医療関係者に確認するとよいでしょう。
肌の悩みをカバーしたい場合は12)
爪の変化
どんな爪の変化が起こるの?13)
爪の変形への対処方法の例14)
日常生活で不具合が生じるだけでなく、爪は人の目に触れやすいことから患者さんの対人関係や心持ちにも影響を及ぼす可能性があります。気になる場合は我慢せず、医療関係者に相談しましょう。
爪囲炎への対処方法の例15)
乳がん、婦人科がん患者のアピアランスケア
乳がん術後のケア16)
乳がん手術では外見の変化だけでなく、身体のバランスも変化するため、心理的問題が起こることが多いです。まずは、手術によって起こりうることを術前から知っておきましょう。そして術後の乳房の傷や形を事前にイメージしておくことが大切です。自分に合ったケアを医療関係者と相談するとよいでしょう。
補整下着や補整パッドなどの補整具を使用することは、患者さんがこれまでと同様の生活に戻り、その人らしく生きることの助けとなるかもしれません。
リンパ浮腫のケア17)
1)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.2~5, 2017
2)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.6~7, 2017
3)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.9, 2017
4)松原康美編 エキスパートナース2020年10月号, P.52, 2020
5)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.56~57.60~61, 2017
6)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.70~72, 76, 2017
7)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.104~108, 112, 2017
8)松原康美編 エキスパートナース2020年10月号, P.60, 2020
9)分田貴子編 がんナーシング2021年1号, P.18, 2021
10)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.139~144, 2017
11)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.125, 2017
12)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.146, 2017
13)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.166~167, 175, 2017
14)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.173~175, 2017
15)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.168~172, 189~190, 2017
16)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.199, 206, 217, 2017
17)宇津木久仁子監修 リンパ浮腫のことがよくわかる本 講談社, P.6~7, 16~17, 66~67, 2019