Appearance care アピアランスケア(外見の変化に対するケア)

アピアランスケアとは、医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケアのことを言います。具体的な方法などを詳しく解説します。

アピアランスケア(外見の変化に対するケア)とは

がん患者さんを取り巻く背景

がん治療による外見の変化に対する患者さんの思い

これまでがんにかかったら、患者さんはがんを克服するために治療に専念すべきであると考え、患者さんの希望があっても「伝えてよいのか分からない」と我慢しがちでした。しかし、がん治療の進歩によってがんとともに生活していく期間が長くなり、患者さんは仕事や家庭の役割など社会とかかわりながら治療を継続することが増えています。その中で、患者さんの生活や思いを考慮したうえで、患者さんと医師が一緒に治療方法を考える動きが広がっています。
患者さんが治療前と変わらない生活を続けたいと希望したとき、特に外見の変化は苦痛を感じやすく、アピアランスケアに対するニーズが高まってきました。

主な外見の変化1)

手術・放射線療法・薬物療法などのがん治療によって、脱毛、皮膚や爪の変化、身体の一部喪失などの短期的なものから永続的なものまで、さまざまな外見の変化が生じます。乳がんや婦人科がん(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんなど)では以下のような外見の変化が起こることが多いです。

乳がんと婦人科がんの主な外見の変化

乳がんと婦人科がんの主な外見の変化について説明した図
1)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.2~5, 2017 を元に作成

外見の変化は単に身体の痛みではなく、自己イメージにかかわる心理的問題や他の人との間で生じる社会的問題もかかわっているため、患者さんにとって強い苦痛を感じる要因の一つだと考えられます。

乳がん患者さんが幸せになるレシピ(座談会)|渡辺亨先生/坂東裕子先生/竹原めぐみ先生/沢井紀子先生

アピアランスケアとは

アピアランスケアとは、「医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化を補完し、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」のことで2)治療前の外見に戻ることや美容的な方法できれいになることがゴールではありません。また、治療で外見が変化したら必ずアピアランスケアを行わなければならないわけでもありません。外見の変化にともなって起こるさまざまな不安や苦痛を解決することが大切であり、患者さんごとにケアの仕方は異なるため、一人で抱え込まず医療関係者に相談しましょう。

2)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.6~7, 2017

アピアランスケアにおいて大切なこと3)

アピアランスケアによって、外見の症状だけでなく、自分らしさが喪失するという心理的問題や、他の人とのかかわりに影響を及ぼすかもしれないという社会的問題を解決して、患者さん自身がその人らしく生き生きと過ごせることが大切です。患者さんの悩みが単に外見の症状だけなのか、または他に要因はないかを患者さん自身で整理してみることも自分に合うアピアランスケアを見つけるきっかけとなります。アピアランスケアをきっかけに、がん患者さんの心理的な負担が軽減され、安心して社会生活を送れることが望まれます。
ここでは、さまざまな外見の変化に対する対処方法の例をご紹介します。外見の変化による苦痛を軽減する方法の一つとして参考になれば幸いです。

アピアランスケアにおいて大切なことについて説明した図 「外見の変化」「心理的問題」「社会的問題」それぞれの問題を解決することが大切
3)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.9, 2017を元に作成

アピアランスケアの方法

脱毛(毛髪、眉毛、まつ毛)

脱毛はずっと続くの?4)

抗がん剤の種類により異なりますが、脱毛は従来の抗がん剤(化学療法剤)で起こりやすいとされています。
毛髪の脱毛は抗がん剤の投与開始1~3週間後に生じることが多いです。通常、脱毛は一過性であり、治療終了後3~6ヵ月程度で発毛がみられますが、髪質が治療前と異なることがあります。そして、8ヵ月~1年程度で回復するといわれています。治療が開始されてからすぐに脱毛が生じるわけではありません。

抗がん剤治療開始後の経過について説明した図
4)松原康美編 エキスパートナース2020年10月号, P.52, 2020.を元に作成

脱毛は毛髪だけでなく、眉毛やまつ毛、体毛など全身に生じる可能性があります。それぞれの部位によって発毛の周期などの特徴や外見の悩みが異なるため、アピアランスケアの方法も変わってきます。
以下に、脱毛にともなう悩みや苦痛を軽減するための対処方法の例をご紹介します。

毛髪の脱毛への対処方法の例5)

まずは、使用する薬剤は脱毛が起こりやすい薬剤なのかを知り、脱毛しやすい場合は脱毛・再発毛のタイミングやケアするために必要な備品を知ることから始めましょう。
必ずしもウィッグや帽子などで脱毛対策をしなければならないわけではありません。どちらにしても、患者さんがその人らしく他の人とかかわれることが大切です。

Point

治療方針が決まったら準備を始めましょう!
具体的な備品だけでなく、脱毛・再発毛のタイミングなどの情報も知っておきましょう。

脱毛対策としてウィッグや帽子などを使用する場合は、患者さんが「自分に似合う」と自信を持てるようなものを選択するのがよいでしょう。
「がんであることを知られたくないから・・・」「治療前と同じ髪型にしないと脱毛とわかってしまう」というウィッグに対するネガティブな気持ちを抱いていませんか?
最近はおしゃれでウィッグを使用される人も多いです。「脱毛を隠すウィッグ」と思わず、「おしゃれで使っているウィッグ」であると自信を持ちましょう。

乳がん患者さんが幸せになるレシピ(座談会)|渡辺亨先生/坂東裕子先生/竹原めぐみ先生/沢井紀子先生

5)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.56~57.60~61, 2017

Point

ウィッグは慌てて購入する必要はありません。自分に合った価格・着け心地・スタイルで選びましょう!

ウィッグ以外にも帽子を使う、つけ毛を使うなどのいろいろな方法があるため、医療関係者に相談するとよいでしょう。

眉毛、まつ毛の脱毛への対処方法の例6)

眉毛は感情を伝える重要なパーツであり、他の人とコミュニケーションするときにも気になる部分だと思います。治療前と同じ状態に戻らなくても、脱毛を目立たないようにするだけで気にせず今まで通りコミュニケーションできるでしょう。
きれいな目元にしようとデザイン性を重視せず、相手にあなたらしい印象を与えられる目元となっているか、相手の距離からどう見えるかという全体の印象を確認しましょう。

乳がん患者さんが幸せになるレシピ(座談会)|渡辺亨先生/坂東裕子先生/竹原めぐみ先生/沢井紀子先生

Point

眉毛やまつ毛だけをきれいに整えようとせず、全体の印象を整えましょう!
必ず化粧をする必要はありません。眼鏡をかけるなど他の方法でも脱毛を目立たなくすることができます。

6)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.70~72, 76, 2017

皮膚の変化

どんな皮膚の変化が起こるの?7,8,9)

瘡様そうよう皮膚炎、色素沈着、手足症候群などの皮膚の変化が起こる可能性があり、ざ瘡様皮膚炎や手足症候群は分子標的薬*で起こりやすく、色素沈着は分子標的薬だけでなく従来の抗がん剤でも起こりやすいといわれています。
ざ瘡様皮膚炎:ニキビのような発疹が顔や体に生じます。抗がん剤治療開始後1~3週後に生じ、その後2~3週をピークに徐々に減少します。
色素沈着(しみ・くまなど):抗がん剤治療開始後2~4週で出現し、治療終了後は月~年単位で徐々に改善します。
手足症候群:抗がん剤治療開始後数日から2週間ごろまでに現れることが多いです。手のひらや足の裏に痛みをともなう水疱が現れ、悪化すると疼痛をともなうため、重症化を防ぐことが大切です。

* 分子標的薬:がん細胞にある特有の分子を標的として攻撃する薬剤

抗がん剤治療開始後の経過(週ごと)について説明した図
7)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.104~108, 112, 2017
8)松原康美編 エキスパートナース2020年10月号, P.60, 2020
9)分田貴子編 がんナーシング2021年1号, P.18, 2021
上記を元に作成

正しいスキンケア10)

皮膚の変化に対するスキンケアのポイントは、「保清(皮膚を清潔に保つ)」「保湿(皮膚の乾燥を防ぐ)」「保護(皮膚を傷つけない)」です。
特別なスキンケアは必要なく、抗がん剤治療前から続けているスキンケアがあれば、それを継続しましょう。スキンケアに不安がある場合は、現在のスキンケアが正しい方法かを医療関係者に確認するとよいでしょう。

Point

正しいスキンケアを知りましょう!

保清

  • 洗い残しやすすぎ残しがないようにしましょう

保湿

  • 保湿はこまめにしっかりと行いましょう

保護

  • ぬるま湯で洗いましょう
  • 皮膚を刺激しないように、ごしごしこすらずやさしく洗いましょう
  • 日焼けは刺激になります。紫外線対策として、日焼け止めを活用しましょう

10)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.139~144, 2017

保湿剤の適切な使用量11)

軟膏やクリーム(10gチューブ)は人差し指の第一関節の量、ローションは1円玉大を目安量としてください。この量は約0.5g程度の目安量であり、手のひら2枚分の面積に使用する適量です。ティッシュがくっつく程度が目安です。
せっかく保湿剤を使用しても量を間違えると乾燥や刺激の原因になるため、保湿剤を使用する際は気をつけましょう。

保湿剤の適切な使用量と使用方法について説明した図

11)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.125, 2017を元に作成

肌の悩みをカバーしたい場合は12)

皮膚の変化は、心理的問題や社会的問題にも影響しやすい外見の変化の一つです。皮膚の変化をカモフラージュするのに決まった方法はなく、患者さんそれぞれの状態や状況に合わせた方法を検討します。
抗がん剤治療前の状態に戻すのではなく、他の人から見て違和感がない程度に皮膚症状を抑えることをゴールにしましょう。

乳がん患者さんが幸せになるレシピ(座談会)|渡辺亨先生/坂東裕子先生/竹原めぐみ先生/沢井紀子先生

12)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.146, 2017

爪の変化

どんな爪の変化が起こるの?13)

従来の抗がん剤や分子標的薬などの治療により手足の爪に変形や爪囲炎(そういえん)が起こる可能性があります。特に、爪囲炎は分子標的薬で起こりやすいといわれています。手足は日常生活で使用することが多く、痛みをともないやすいです。症状が現れる時期には個人差があり、抗がん剤の種類にもよりますが、比較的遅く、抗がん剤治療開始から数ヵ月後に現れることもあります。爪の変化がみられたら、重症化する前に早期から対処することが大切です。ケアする場合は、日常生活で感じる爪への不快感を軽減させることをゴールにするとよいでしょう。

13)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.166~167, 175, 2017

爪の変形への対処方法の例14)

日常生活で不具合が生じるだけでなく、爪は人の目に触れやすいことから患者さんの対人関係や心持ちにも影響を及ぼす可能性があります。気になる場合は我慢せず、医療関係者に相談しましょう。

乳がん患者さんが幸せになるレシピ(座談会)|渡辺亨先生/坂東裕子先生/竹原めぐみ先生/沢井紀子先生

Point

爪がもろくなったと感じたら、保湿をしたり保護したりしましょう。
マニキュアをしたり、ネイルチップをつけたりことも対処方法として有効です。

14)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.173~175, 2017

爪囲炎そういえんへの対処方法の例15)

ささくれやさかむけで始まる場合もあり、まずはスキンケアを行いましょう。痛みをともなう場合はステロイド外用薬やテーピングなどで対処します。
特に、足の爪囲炎は靴や靴下による圧迫が原因であるため、締めつけすぎないものを選択しましょう。

乳がん患者さんが幸せになるレシピ(座談会)|渡辺亨先生/坂東裕子先生/竹原めぐみ先生/沢井紀子先生

15)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.168~172, 189~190, 2017

乳がん、婦人科がん患者のアピアランスケア

乳がん術後のケア16)

乳がん手術では外見の変化だけでなく、身体のバランスも変化するため、心理的問題が起こることが多いです。まずは、手術によって起こりうることを術前から知っておきましょう。そして術後の乳房の傷や形を事前にイメージしておくことが大切です。自分に合ったケアを医療関係者と相談するとよいでしょう。
補整下着や補整パッドなどの補整具を使用することは、患者さんがこれまでと同様の生活に戻り、その人らしく生きることの助けとなるかもしれません。

Point

手術の程度や生活スタイルにあわせて、ケアの方法を選択しましょう。
生活や趣味を制限する必要はありません。温泉など補整下着をつけられない場所ではタオルで隠すなどの工夫で目立たなくなります。

16)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.199, 206, 217, 2017

リンパ浮腫のケア17)

乳がんや婦人科がんでリンパ節を取り除いたり、放射線治療が行われた後にリンパ浮腫が起こる可能性があります。がん治療後にむくみが生じやすい部位は、肘の上下(乳がん)や下腹部・陰部・足の付け根(婦人科がん)などの見えやすい場所にも起こりやすいため、外見の変化をともなう場合があります。
リンパ浮腫は発症を予防することが大切ですので、発症リスクを避けた生活を送り、気になる症状があれば、早めに医療関係者に相談するとよいでしょう。
日常的なセルフケアとしてスキンケアや弾性ストッキングを用いることも予防方法の一つです。

17)宇津木久仁子監修 リンパ浮腫のことがよくわかる本 講談社, P.6~7, 16~17, 66~67, 2019

1)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.2~5, 2017
2)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.6~7, 2017
3)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.9, 2017
4)松原康美編 エキスパートナース2020年10月号, P.52, 2020
5)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.56~57.60~61, 2017
6)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.70~72, 76, 2017
7)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.104~108, 112, 2017
8)松原康美編 エキスパートナース2020年10月号, P.60, 2020
9)分田貴子編 がんナーシング2021年1号, P.18, 2021
10)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.139~144, 2017
11)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.125, 2017
12)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.146, 2017
13)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.166~167, 175, 2017
14)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.173~175, 2017
15)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.168~172, 189~190, 2017
16)野澤桂子、藤間勝子編 がん患者さんのアピアランスケア 南山堂, P.199, 206, 217, 2017
17)宇津木久仁子監修 リンパ浮腫のことがよくわかる本 講談社, P.6~7, 16~17, 66~67, 2019

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