女性特有のがんといっても、乳がんと婦人科がん(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん)では違った日常生活の悩みがきっとあるはず。
この度、婦人科がんを経験され、それぞれの患者会を中心にピアサポーターとして活動されていらっしゃるみなさまにお集まりいただき、コロナ時代らしく、各地をZoomでつなぎ座談会を開催いたしました。
婦人科がんになったとき、治療中や治療後の日常生活ではどんなことに困って、解決するための情報はどのような方法で入手されたのでしょうか。また、Webサイトはどんなときに活用されているでしょうか。
6名の経験者のみなさまに、日常生活でのさまざまなご自身の体験を共有していただきました。
開催日時:2021年7月3日(土)Web開催(各Zoom会場をつなぐ)
本記事掲載の写真は座談会当日に撮影または後日皆様からご提供いただいたものです
郷内 淳子 さん(60代)
卵巣がんをご経験
職業・就業状況:自営業
サバイバー歴:17年
ピアサポーターとしての活動:「カトレアの森」
阿部 佐智子 さん(50代)
子宮体がんをご経験
職業・就業状況:パートタイマー
サバイバー歴:15年
ピアサポーターとしての活動:
「カトレアの森」会長
「がん患者会・サロン ネットワークみやぎ」
中村 純子 さん(50代)
子宮体がんをご経験
職業・就業状況:会社員
サバイバー歴:12年
ピアサポーターとしての活動:「カトレアの森」
松井 葉子 さん(50代)
子宮体がんをご経験
職業・就業状況:非常勤(事務職)
サバイバー歴:5年
ピアサポーターとしての活動:女性がん患者会「ぱるれ」
佐藤 芳子 さん(40代)
子宮体がんをご経験
職業・就業状況:会社員(事務職)
サバイバー歴:0年
2020年11月から「オレンジティ」に参加
小磯 朋子 さん(30代)
子宮頸がんをご経験
職業・就業状況:会社員(福祉施設職員)
サバイバー歴:11年
ピアサポーターとしての活動:
「オレンジティ」スタッフ、
オレンジブロッサムcafeチーフ
(AYA世代おしゃべりルーム)
卵巣欠落症状(更年期様症状)について
佐藤:私は昨年手術をして、子宮と卵巣を全摘しました。術後しばらくすると更年期障害に似た心身の不調が出てきました。イライラしたり、暗い気持ちになったり、仕事に集中できなかったり、自分の感情のコントロールが難しくなっていきました。最初は理由がわからず不安になりました。インターネットでいろいろ調べたり、患者会で相談してみて、これは卵巣欠落症状だと思いました。子宮がんの手術では卵巣も摘出する場合があり、卵巣を切除したことで女性ホルモンが低下して、更年期症状が出たり、骨粗鬆症や脂質異常症になりやすくなったりします。
阿部:私も卵巣欠落症状を経験しました。女性ホルモンの補充療法があるかもしれませんが、子宮体がんの場合、補充療法は難しいし、漢方薬などで症状が軽減できると聞きますが、少しでも症状軽減に役立つ情報があると助かりますね。
中村:私も卵巣欠落症状ではかなり悩みまして、専門家の意見ももちろん必要ですが、患者会に参加して、同じ経験をした方から情報を得たことがとても貴重でした。やっぱり体験談は参考になりますね。
下肢リンパ浮腫について
郷内:みなさんの関心が高いのは、下肢のリンパ浮腫のことだと思います。患者会の中の茶話会のテーマで、毎年必ず1回ぐらいは開催しますが、参加者がとても多いです。
中村:私にとっても茶話会でリンパ浮腫を取り上げていただけるのはありがたいことです。参加すると、きちんとセルフケアしなくてはと思います。私は怖くて術後10年くらい経ってからようやく自分の傷をまともに見ることができたのですが、やはり常に自分の身体に関心を持つということが大切だと思います。気になったら、すぐに聞いたり、リンパ浮腫外来に行ったほうが解決が早いと思います。
消化器症状(下痢、便秘)、腸閉塞のコントロール
小磯:私は抗がん剤や放射線治療中、便秘と下痢が交互に起こって、薬剤の調節も難しかったです。電車やバスで、通院するのが大変でした。とてもつらい思いをしたので、皆さんがどうしてるのかなということが気になりました。
また、卵巣欠落症状で脂質異常になったので、ダイエットのためにエノキダケをたくさん食べたら、次の日にお腹を壊して苦しい思いをしたことがありました。そのときは術後に繊維質の多いものを摂りすぎないように気を付けなくてはいけないことを知らなかったからです。
中村:腹痛や便秘、下痢といった症状が、手術後は余計に心配になってしまうんですよね。茶話会でも腸閉塞の予防について、これは食物繊維が多いから食べ過ぎないようにといったことを勉強するんですけど、「これも減らさなくちゃいけないのかな?」、「水溶性の食物繊維だったらいいのかな?」、「食物繊維が少なかったら、今度は便秘になるんじゃないかしら?」など、勉強したときはわかっても、あとから疑問が生じてきます。
小磯:卵巣欠落症状でコレステロール値や中性脂肪が上がったりしたので、1年かけてダイエットに成功しましたが、一人ではなかなか難しいと思いました。
最近、オレンジティには新たな企画として「ダイエット部」ができました。入部すると1ヵ月に1回参加できて、「どんなものを食べているの?」、「どういう運動しているの?」、「今月はこんなこと我慢したよ」などと言い合っています。何かを強制されるわけではなく、一緒に励まし合えるのがいいですね。
松井:私は、コレステロール値、とくにLDLの値がどうしても下がらなくて、運動や食べ物などいろいろ考えて、今まさに悩んでいます。何か有用な情報がいただけるとありがたいなと思います。
郷内:抗がん剤治療中は、料理はしたくないのが本音なので、手抜きできるメニューや、食べやすい調理の工夫などの情報があるといいですね。食欲も低下して、痩せてしまう人も多いと思うので、栄養をきちんと摂れるようなメニューや手軽な調理方法について、栄養士さんから紹介していただけるといいなと思いました。たとえば、野菜やいろいろな素材を煮込んだような身体にいいスープなどを紹介してほしいですね。
小磯:私は20代のときに手術しましたが、「流行っているけど、スキニーパンツは履いてはいけません」とか、「ヒール靴はよくないです」、「エプロンみたいにお腹を締めつけないワンピースを着てください」と言われました。「もう私はスキニーパンツを履けないんだ」と、流行っている服装が着れないし、夏でも黒い弾性ストッキングを履いていなくてはいけないのかしらと思っていました。ガウチョパンツが流行ったときは嬉しくて、ずっと流行っててと思いました。
その後、患者会に行った時に「短時間ならヒール靴を履いてるわ」、「お出掛けのときはヒール靴を履くけど、その後きちんとケアをしているのよ」という話を聞いてなるほどと思いました。制限し過ぎると自分の心がつらくなるから、おしゃれを楽しんだ後はしっかりフォローすればいいのかなと思いました。
今は10年経って、だんだん自分に合う服装や、ラクだけどおしゃれに見えるものを探したりして、楽しめるようになりましたが、ヒール靴は履く機会が少ないですね。
また、オレンジティでは、リンパ浮腫があってもおしゃれするには、どういう服装がいいかなどの情報を発信しています。
中村:私はウィッグでかなり悩みました。手術を10月に行い、12月末まで抗がん剤治療をして、「冬でよかったね」って言われたのですが、結局、最終的にウィッグを外したのは8月だったので、暑くなってから悩みました。それは病気のことを友達に内緒にしていたからということもあります。友達にも会えなくて、仕事だけは出かけるけど、あとは家にこもっていました。ウィッグを外せるようになってから、やっと前向きになれたんです。そういう経験をされた方もいらっしゃるのではないかなと思います。
阿部:抗がん剤治療中は、爪も影響を受けてボロボロになった経験があります。また、リンパ浮腫になっている方は蜂窩織炎*のリスクが高いので、土いじりをするときには要注意です。さまざまな予防のためにも手指を保護する手袋を活用したほうがいいと思います
*:蜂窩織炎は、皮膚とその下の組織に細菌が侵入し、炎症が起こる皮膚の感染症です1)。リンパ浮腫があると循環が悪いため、わずかな細菌の侵入で感染が広がりやすく注意が必要です2)。
1) 厚生労働省 介護現場における感染対策の手引き 第2版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000814179.pdf(最終閲覧日:2024年6月3日)
2) 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕コロイド
https://jsprs.or.jp/docs/guideline/keiseigeka2.pdf(最終閲覧日:2024年6月3日)
適度な運動とは
佐藤:運動をすることで、落ちてしまった筋力や体力の回復を図ることができます。私は身体を動かすと気持ちが前向きになって、気分が軽くなります。がんになったらどういう運動をしたらいいのか、自分に合ったエクササイズの動画を見られると良いなぁと思いました。
阿部:体重管理も含め、運動したほうがいいことはわかりますが、「適度な運動ってどういうの?」という疑問から、私たちの患者会ではリハビリテーション科の先生にお願いして、簡単に家でもできる、あるいはイスに座ったままでできる体操を教えていただきました。
紙の資料でもらっても、そのうちにわからなくなってしまうので、短時間の動画があると助かるなと思います。
性生活の悩み
小磯:私は罹患した年齢が20代だったので、性についての問題を一人で抱えてしまい、オレンジティに出会うまでは誰にも言えませんでした。医療関係者の方に「何かあれば相談してください」と言われても、男性の先生に言えないし、生き生きと生活している医療関係者の方にもうらやましい気持ちや劣等感を感じていたので、看護師さんにも相談ができませんでした。情報もあまりなかったし、そういう専門的知識を持って相談できる方がいたら、ナイーブな部分も相談しやすいのかなと思います。
たとえば、子どもを持つ人生なのか、持たない人生なのか、選択肢の一つとして養子縁組支援もあるとか、選択肢はいろいろあるのに知らなかったから、いろいろな在り方を考えられず、オレンジティで知るまでは先が見えなかったという感じでした。いろいろな選択肢があることが情報として気軽に見られるWebサイトなどに載っていると、こういう人生もあるのだなという、次につなげるきっかけになるのかなと思いました。
周囲の人との関わり
中村:家族との関係では、私の病気を知って母のほうが精神的にまいってしまって、私は自分のことで精いっぱいなのに母のことまではケアできなくて、そのとき患者会に相談したところ、家族も相談できる場所があるという情報をいただけました。やはり家族のケアも大切だと思います。
郷内:私の場合、結婚していて両親もいて、自分の治療だけに専念できなかったかなと思います。女性である前に、妻や母、嫁という役割があり、家庭内でもいろいろ遠慮する部分があったかもしれません。主婦になり、経済的にも家族に依存していたので、高額の医療費がかかるものは踏み切れないことがありました。患者会は同じ悩みの方たちにわかってもらえる場になり、どれほど救われたかしれません。
松井:手術をして退院してきたら、家族はもう大丈夫と思っているようで、あまり気にしてくれなくなりました。家族、とくに配偶者向けの情報があるといいなと思いました。
佐藤:私は抗がん剤治療をしながら、在宅勤務で仕事を続けました。人それぞれの考え方はあると思いますが、がんになっても治療と仕事の両立はできるので、周りの人には理解してもらい、必要な時は手を貸してほしいなと思います。
小磯:私はブログを読んでいました。たまたま自分と同い年の人が、少し早い時期に同じような経過をたどっていて、赤裸々に綴っていたのでその人のブログをひたすら読んでいました。自分も実際にこういうふうになるんだなって思っていましたが、やはり一人の体験なので、もっと情報をほしいなとも思っていました。
佐藤:私は、手術で入院していたときに病院内のチラシでオレンジティを知り、治療中の早い時期に患者会にたどり着け、生の声で情報を収集することができました。またYouTubeやブログなどインターネットを検索して、自分に似た病状の方の情報を参考にしていました。
中村:私は手術前にいろいろ探して、カトレアの森にたどり着いて話を聞きに行きました。その他にも、あらゆるがん相談に行ったり、本を買ったり、インターネットでいろいろ調べたりしました。でも、人それぞれ全く違うので、自分に当てはまらない情報もあり、こんなに怖いことがあるんだと引いてしまう部分もあるので、正確な情報を選択するのが一番大切なことだと思います。
郷内:やはり私も卵巣がんのブログを検索して、それを明け方までずっと食い入るようにたくさん読んでいて、参考になったこともありました。卵巣がんは大変厳しいがんで、その一人ひとりのブログの治療の経過や再発したとか、いろいろなことが赤裸々に書いてあって、生々しくて、途中から私もつらくて悲観的になってしまったのでブログ読むのをやめてしまいました。
それからは、医療機関や学会からの情報提供も充実してきたので、信頼できるところが発信する情報を見るようになりました。最終的に、情報を選ぶことの大事さを実感しました。何がいい情報なのか答えはないというのが、今の私の気持ちです。
情報にはすがりたくなるけど、すがったことによって、別な道に行ったらどうしようかなというのがすごく悩ましい。だから、いろんな人に、どうしたらいい?と聞かれても、自分の経験だけで軽々しく言えないし、ピアサポーターも難しいなと感じている現状です。
小磯:郷内さんのお話を聞いて、顔が見えること、生の声が大事だなと思います。私もブログの情報に助けられた部分はありますが、自分が知らない人の話だから、これって本当はどうなんだろうとか、みんなはどう思っているんだろうと、何となく心が満たされなかったりしました。それがオレンジティに参加して、人それぞれ違うけれど、私はこうだったよとか、何となく折り合いをつけている人が目の前にいて、自分だけじゃないんだとすごく安心できました。それまでずっと一人だったような気がしたけど、安心できる場所だなというのをすごく感じました。
阿部:私たちピアサポーターが患者会で茶話会をしたり、病棟でお話しすることもあります。その時に、自分はこういう治療をするのだけれど、その後はどうなっていくのですかって聞かれたりするので具体的にお話をします。ピアサポートとしてお手伝いできたと満足感もありますし、受けられた方も、「元気になっていく過程を目の前で見られて元気をもらえました」って話していただけるので、やはりそれがすごく大切なのではないかなと思います。
松井:緩和ケアにもいいイメージがなくて、緩和ケアイコールもう終末期のようなイメージがついていますが、本当はそうではなくて、がんと診断されてから緩和ケアは始まるのに、なかなかみなさんに理解してもらえないところがありますよね。その誤解を払拭できるような情報も発信してほしいですね。
阿部:全国には同じような体験をした方がいらっしゃいます。あなた一人じゃありません。たくさんの仲間やあなたの応援団がいることを忘れないでください。患者会もいろいろあるのでご自分に合った患者会を探したり、各地の病院にもがんの相談窓口がありますので、専門の方の力を借りて元気になっていただきたいなと思います。
郷内:いまはがん患者を取り巻く支援の場も充実しています。家族や身内だけのサポートではなく、医療関係者や社会制度を活用したり、自分からアクションを起こせば、いろいろな支援にたどり着けると思います。治療だけでなく、生活や就労など、いろいろな分野をサポートしてもらえるので、情報を上手に活用して、進んでいただきたいなと思いました。
中村:やはり早期発見が大事なので、医療がさらに進歩して早期発見早期治療につながり、みなさんが治療から解放されて普通の生活に早めに戻れるようになることを期待しています。
小磯:病気と共に生活していくことはすごく大変なことですが、正しい情報をキャッチしたり、患者仲間と話をしたりしながら、一人ではないことを感じて過ごしていくことが大切だと思います。
「がんになっても生きているよ~こんな人生送っているよ~」といういろいろな人生の在り方があることを伝えていけたらなと思います。
佐藤:今はインターネットで検索すれば情報があふれていますが、間違った情報もありますので、正しく選択してほしいと思います。また、がん診療連携拠点病院には必ずがん相談支援治療センターがあり、看護師さんや薬剤師さんにも相談できますので活用してください。患者会の生の声もすごく大事で、治療後の人生をどうやって生きるかを考えるときに、いろいろな人の体験が役に立ちます。
松井:やはり一人じゃないということですよね。少しの勇気を持って、いろいろなところにコンタクトを取れば、本当に正しい情報をスピーディーに手に入れることができると思っています。ぜひ、このサイトを活用していただきたいなと思います。