リンパ浮腫の予防とセルフケア

監修者 プロフィール監修者 プロフィール

渡部 弘美さん

四国がんセンター 外来看護師長
日本医療リンパドレナージ協会 リンパドレナージ複合的理学療法(上級)の資格を有している。日本リンパ浮腫治療学会四国地方会の世話人も務める。

一宮 理菜さん

四国がんセンター 看護部
日本医療リンパドレナージ協会 リンパドレナージ複合的理学療法(中級)の資格を有し、リンパ浮腫ケア外来でセルフリンパドレナージの指導を行っている。

リンパ浮腫はなぜ起こるのでしょうか?

リンパ浮腫とは、がんの治療部位に近い腕や脚などの皮膚の下に、正常に流れなかったリンパ液が溜まってむくんだ状態のことをいいます。
リンパ浮腫が起こる要因(リスク)は、乳がん・子宮がん・卵巣がんなどでリンパ節を取り除いたり、放射線治療が行われた場合などです。がんの治療はできる限りがん細胞を取り除くことを目標に行われるため、がんの病巣だけでなく、その近くにあるリンパ節も手術で取り除くことがあります。これをリンパ節郭清術といいます。また、再発を防ぐために、放射線治療を行うことがあります。そうすると、リンパ管が切断されたり細くなってしまうため、リンパ液の流れが悪くなり、皮膚の下に溜まってしまい、リンパ浮腫が起こることがあります。

がん治療後にむくみが生じやすい(リンパ浮腫が起こりやすい)部位は、乳がんの治療後では肘の上下、婦人科(子宮、卵巣)がんでは下腹部・陰部・脚の付け根(内もも)あたりです。
起こりやすい時期には個人差があります。リンパ浮腫を発症しない方もいますし、術後に退院してすぐに発症する方もいます。

乳がんの治療後に起こりやすい部位

乳がんの治療後に起こりやすい部位

婦人科がんの治療後に起こりやすい部位

婦人科がんの治療後に起こりやすい部位

リンパ浮腫の発症や悪化につながる要因とは?

リンパ節郭清術はリンパ浮腫の大きな要因ですが、そのほかにも発症や悪化につながる要因(リスク)があります。よい状態を維持するために、退院後の日常生活でリスクを避けるように気をつけましょう。

発症や悪化につながる要因

  • 疲労やストレスが溜まると、発症したり悪化しやすくなります。仕事や家事もがんばり過ぎないようにしましょう。
  • 体重増加もリスクの一つです。運動不足は体重増加につながります。適度の運動を心がけましょう。散歩程度でかまいません。
  • 皮膚から細菌が入り込んで、感染や炎症を起こすと、リンパ浮腫になりやすく、また症状が悪化してしまいます。野外活動や土いじりなどでの虫刺されや小さなケガにも気をつけましょう。

蜂窩織炎は、皮膚とその下の組織に細菌が侵入し、炎症が起こる皮膚の感染症です。
リンパ浮腫があるとリンパの流れが悪いため、わずかな細菌の侵入でも感染しやすく注意が必要です。むくみがあるところに、皮膚の赤みと発熱があったら発症のサインです。
放っておかないで、医療機関を受診しましょう。

リンパ浮腫を予防するために日常生活で気をつけたいことは?

リンパ節郭清術はリンパの流れを滞らせる大きな原因となるため、残念ながらリンパ浮腫の発症を確実に防ぐ方法はありませんが、日常生活の行動に気をつけることで予防につながります。ではいったい、具体的にどんなことに気をつけたらよいでしょうか?以下の留意点を参考にして日頃からセルフケアを心がけましょう。

上肢(腕)下肢(足)のリンパ浮腫予防に共通の留意点

  • 腕や脚に負担をかけすぎない
  • 仕事や家事は一度にまとめて行わず休憩をとる
  • 大掃除や引っ越しでは無理をしすぎない
  • 激しい運動は避ける
  • 部分的に締め付けがきつい指輪や時計、下着、靴下など跡が残るものは避ける
  • 腕や脚に違和感や疲労感を感じた場合、クッションや布団で少し上げて寝る(10cm程度)
  • 体重管理(肥満の予防)をする
  • 長風呂をしない

上肢

寝るときにクッションや座布団を肘の下に入れ、心臓より肘の方が高くなるようにする

下肢

寝るときに布団の下にクッションを置いて、足全体を少し上げる(片足だけでは腰痛の原因となりますので、両足を上げるようにしましょう)

上肢のリンパ浮腫予防の留意点

  • 重いものを持たない
    (買い物袋を持つ時、肘にかけない)

下肢のリンパ浮腫予防の留意点

  • 長時間同じ姿勢にならないようにときどき椅子から立ち上がったり、膝や足首を動かす
  • きつい靴やヒールの高い靴は避ける

なぜセルフケアが重要なのでしょうか?

リンパ浮腫は一度発症すると完全に治癒することが難しい症状です。
しかし、適切な治療や日常的なセルフケアを行うことで症状は改善する可能性があります。リンパ浮腫を発症しても軽いむくみであれば、セルフケアを続けながら普段の生活を送ることができます。重症化すると日常生活に支障を来たしてしまうことがあるので、発症後は早い時期から治療を始め、重症化を防ぐことが重要です。
日常的なセルフケアは、がんばってケアすればそれだけ効果が上がるというものでもありません。ケアがストレスになっては本末転倒になってしまいます。がんばりすぎず、ほどほどにして長く続けていきましょう。

セルフケアでもっとも大切なのはスキンケア!

セルフケアのなかでも、スキンケアは必須です!できれば症状の有無にかかわらず、毎日続けていただきたいケアです。スキンケアのポイントは、「保清・保湿・保護」の3つです。具体的なケアの方法は以下の通りです。

保清:皮膚を清潔に保つ

  • 石けんやボディソープは自分の肌に合うものを使用する
  • 皮膚を優しく洗う
  • 水虫など皮膚に病気がある場合は治しておく

保湿:皮膚の乾燥を防ぐ

  • 皮膚が乾燥すると保護機能が低下し細菌感染を起こしやすくなる
  • 自分の肌に合った保湿剤を使用して潤いのある状態にしておく

保護:皮膚を傷つけない

  • 擦り傷や切り傷などのけがをしない
  • 虫刺されやペットによるひっかき傷に注意する
  • 野外活動や土いじりをする時は手袋・長袖・長ズボン・靴下などで皮膚を守る
  • ムダ毛の処理はかみそりは避け、電気シェーバーなどを使用する
  • 鍼灸や刺激の強いマッサージ、湿布(かぶれやすい方)は避けた方がよい
  • 直射日光を避ける

早期に発見するには?

リンパ浮腫が厄介なところは、手術後すぐに起こるとは限らず、いつ起こるかわからないことです。1~2年あるいは3~4年後に発症することがあり、治療が終わり外来通院の間隔が空くと忘れた頃に発症する方もいます。
また、急激に発症する場合や、徐々に症状が出る場合など、症状の現れ方もさまざまです。もちろん、リンパ節郭清術を行った人すべてが発症するわけでもありません。したがって、早期に発見するためには日頃からの自己観察が大切です。では、どのようなところに気をつけて観察したらよいでしょうか?

早期発見のポイント

  • 手足がだるい、重い、疲れやすい
  • 指輪がきつくなった
  • 腕時計がきつくなった
  • 靴がきつくなった
  • 部分的なむくみ
  • 静脈がみえにくくなる

また、その他にも
                異常を感じたらまず
                医師に相談しましょう!!

リンパドレナージとは?

「ドレナージ」とは排液という意味で、腕や脚の皮下組織に溜まったリンパ液を正常なリンパ節に誘導するように、優しく、ゆっくりと行うマッサージの技法を「リンパドレナージ」といいます。一般的に行われているあんまマッサージや美容目的のマッサージとは異なります。
リンパ浮腫外来などでは専門家によってリンパ浮腫治療として行われますが、ご自宅でご自身が行うことができるリンパドレナージの方法もあります。ただし、炎症(発赤や痛み)がある時は、マッサージを行わないでください!ご自宅で行うリンパドレナージの方法についてご紹介します。

上肢のドレナージ(マッサージ)

乳がんや皮膚がんの手術後で脇の下のリンパ節を切除した場合、上肢のリンパ液の流れが悪くなります。
そのため、リンパ液を正常なリンパ節の残っている反対側の脇の下まで誘導する目的でマッサージを行います。疲れた時に10~15分程軽く行うのが適当です。

マッサージ開始前の準備運動

①肩回しを10回
鎖骨が動くのを感じながら、両腕を前から後ろへ大きく回転しましょう

②腹式呼吸を5回
口からゆっくり口笛を吹くように息を吐き、鼻からゆっくり息を吸いましょう

マッサージの方法(図の番号を参照)

  1. 最初に手術していない方の脇の下をマッサージし、脇の下のリンパ節へ流れ込みやすくします
  2. 前胸部は、手術していない方の脇の下に向けて流します
  3. 二の腕は、肩先に向けて流します
  4. 前腕は、手首から肘に向けて流します
  5. 手は、指先から手首に向けて流します

最後に仕上げとして、図⑤⇒④⇒③⇒②の順で手術していない方の脇の下へ流します。

下肢のドレナージ(マッサージ)

婦人科がんの手術後で、骨盤内やそけい部(脚の付け根)のリンパ節を切除した場合、下肢へのリンパ液の流れが悪くなっています。そのため、リンパ液を正常なリンパ節の残っている同側の脇の下まで誘導する目的でマッサージを行います。

マッサージ開始前の準備運動

①肩回しを10回
鎖骨が動くのを感じながら、両腕を前から後ろへ大きく回転しましょう

②腹式呼吸を5回
口からゆっくり口笛を吹くように息を吐き、鼻からゆっくり息を吸いましょう

マッサージの方法(図の番号を参照)

  1. 初めにむくんでいる脚と同側の脇の下をマッサージし、脇の下のリンパ節へ流れ込みやすくします
  2. 胴体の部分は、脇の下に向けて流します
  3. 太ももは、腰骨の外側に向けて流します
  4. 膝の周囲は、上に向けて流します
  5. ふくらはぎは、足首から膝に向けて流します
  6. 足はつま先から上に向けて流します

最後に仕上げとして、図⑥⇒⑤⇒④⇒③⇒②の順で脇の下へ流します。

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