将来の妊娠のために今できること

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安宅 大輝さん

東邦大学医療センター大森病院 不妊症看護認定看護師
全国で2人目の男性の不妊症看護認定看護師として、不妊に関する悩みを抱えるカップルに必要な情報を提供し、意思決定を支援している。また、がん患者さんの性や生殖の問題に対する支援の充実にも取り組んでいる。

監修者 プロフィール|安宅 大輝さん

妊娠について考えてみましょう

がんの治療を始めると、治療内容によって異なりますが、少なからず卵巣機能にも影響を受け、治療後は妊娠が難しくなることがあります。そのため、将来の妊娠のために、妊孕性(にんようせい)を温存するという方法があります。妊孕性とは、妊娠できる力のことを示し、妊孕性を温存するための方法を「妊孕性温存療法」といい、いくつかの方法があります。

そして、あなたが将来の妊娠を望むなら、がん治療による卵巣機能への影響や妊娠の可能性について考える必要があります。また、今は妊娠を望む気持ちがなくても、将来、パートナーと出会った時などに考えが変わるかもしれません。そのためには、どのような情報が必要でしょうか。

妊娠について考えるために必要な情報とは

  • あなたのがんの特徴や状態
  • 治療の種類や大まかなスケジュール
  • 現在のあなたの卵巣機能の状態
  • 妊孕性温存療法に取り組む時間があるか
  • 妊孕性温存療法の身体的負担や精神的負担、経済的負担について
監修:安宅大輝さん

妊孕性温存療法について予め知っておいてほしいこと

  • あなたの命がもっとも大切なので、がんの治療が最優先されます
  • がんの治療と妊孕性温存療法が安全に両立できるかどうかは、がん治療医(主治医)の承諾のもと生殖医療医に相談する必要があります。
  • 妊孕性温存療法は方法により、一定期間が必要となりますので、できるだけ早く生殖医療機関を受診できるように準備しましょう
  • 妊孕性温存療法を受けたい場合には、パートナーやご家族の気持ちも大切。治療にかかる期間や費用などを含め、十分に話し合いましょう
  • 妊孕性温存療法は着実に進歩していますが、必ず温存ができ、将来の妊娠が約束されているというわけではありません

妊孕性温存療法にはどんな方法がある?

妊孕性温存療法には3種類の方法があり、それぞれ対象となる方が異なります。

01:胚(受精卵)凍結保存

対象となる方は…

配偶者のいる女性(事実婚を含む)
がん治療開始までに時間的な余裕がある女性

方法は…

排卵誘発剤を使用して卵子を複数採取します。パートナーの精子と受精させ、数日間培養してできた胚を凍結保存します。受精の方法としては、卵子に精子を振りかけて体外で自然に受精させる「体外受精」と、卵子の中に顕微鏡下で精子を直接注入する「顕微授精」の2種類があります。

かかる期間は…

採卵までに、多くの場合は2週間以上かかります。

実施例は…

技術的に確立していて、国内の実施例も多いです。

卵子と精子を受精させる

受精卵を培養

胚の凍結保存

(イメージ図)

体外受精

顕微授精

卵子の中に精子を注入する

(イメージ図)

02:卵子(未受精卵子)凍結保存

対象となる方は…

未婚の女性、パートナーがいない女性
がん治療開始までに時間的な余裕がある女性

方法は…

排卵誘発剤を使用して卵子を複数採取し、そのまま凍結保存します。

かかる期間は…

採卵までに、多くの場合は2週間以上かかります。

実施例は…

技術的に確立してきていて、国内の実施例も増えていますが、胚凍結と比較すると将来の妊娠率は劣ります。

(イメージ図)
(イメージ図)

03:卵巣組織凍結保存

対象となる方は…

生理が始まっていない女性、排卵誘発が困難な女性
がん治療開始までに時間的な余裕がない女性

※ただし、卵巣組織にがん細胞が混入している可能性がある場合はできません。

方法は…

卵巣の組織を一部切除し、凍結保存します。

かかる期間は…

手術のために数日必要です。

実施例は…

選択肢の一つですが、実施できる施設は限られています。

(イメージ図)

将来妊娠するための治療とは

がんの治療が終わり妊娠するための治療を行うには、がん治療の状況や、あなた自身の体調や卵巣機能などが戻っているかどうかを、まずはがん治療医(主治医)に確認することが必要です。
また、妊娠に向けての準備は、凍結保存の方法によって異なります。こちらは生殖医療医に相談しましょう。

胚(受精卵)凍結保存の場合は

凍結している胚を融解して(融かして)子宮内へ戻します。一般の不妊治療の患者さんでは3種類の方法の中では最も多くの実績があります。

卵子(未受精卵)凍結保存の場合は

凍結している卵子を融解して、体外受精や顕微授精を行います。受精が確認できたら、数日間培養してできた胚を子宮内へ戻します。

卵巣組織凍結保存の場合は

凍結保存していた卵巣組織を融解して、手術で体内へ戻したり、体外に移植する場合もあります。卵巣の機能が回復したことを確認できたら、体外受精や顕微授精を試みますが体内に戻した場合には自然妊娠する可能性もあります。ただし、限られた施設でのみ行うことができます。

妊孕性温存にかかる費用は

妊孕性温存療法は自費診療となるため、診療費は施設によって異なります。その経済的負担は大きく、これまでは自治体ごとに独自の経済的支援が行われていました。しかし2021年度から、各自治体指定の医療機関で妊孕性温存療法を受けた方に対する助成制度が全国的にスタートしました。指定医療機関や年齢等の諸条件、助成内容に関しては自治体ごとに違いがありますので、希望される方は各自治体にお問い合わせください。
また、技術的な面においてもがん治療と生殖医療の地域連携を日本中に広めようというさまざまな取り組みが進められています。(がん治療と妊娠:https://j-sfp.org/cooperation/)「2021年12月時点」

がん治療後のみなさんへ

みなさんが、がん治療を終えて新たな人生をスタートした時に、性や妊娠に関することを誰かに相談することは決して簡単ではないですよね。そして悩んだ時に、どこに相談していいのかわからないことも多いと思います。今は、もしかしたらがん治療を終えて、医療関係者に相談する機会も少なくなっているかもしれません。そのため、素敵な出会いがあっても躊躇したことがあるかもしれませんね。また、素敵なパートナーとのあいだに子どもを授かることができるのか不安になることもあるでしょう。そんなときには、今回ご紹介したサイトや医療機関、看護外来、患者会にアクセスしてみましょう!一人でも、パートナーと一緒に訪れてもいいでしょう。がん治療後に同じ悩みを抱えている方はたくさんいます。きっとあなたが求めている情報を教えてくれたり、相談にのって力になってくれるでしょう。みなさんがより素敵な人生を歩めることを願っています!

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