乳がん患者さんが自分らしく歩むための7つのプログラムとボランティア支援
聖路加国際病院(東京都中央区)での取り組み
乳がんにかかった方は、病気や治療のことだけでなく、さまざまな悩みを抱えています。こころのこと、外見のこと、仕事のこと、お金の問題、、、。今回は、それら乳がんの患者さんの悩みを多方面からサポートする目的で、複数のプログラムを総合的に実施している聖路加国際病院ブレストセンターの取り組み「“リング”プログラム」と「病院訪問ボランティア」をご紹介します。
がんサバイバーシップ「“リング”プログラム」
「皆がつながって、聖路加ブレストセンターの愛を社会につなぐ」という思いを“リング”の言葉に込め、乳がん患者さんを多角的にサポートする7つのリングプログラムが展開されています。 各プログラムは、聖路加国際病院に通院している方以外でも参加でき、5~10人規模での連続した講座になっているため、患者さん同士のつながりや情報交換の場にもなっています。
Pink Ring
35歳以下で発症する、若年性乳がんの患者さんのためのサポートグループです。若年性乳がん特有のさまざまな悩みを共有し、情報提供を行うことを目的として、幅広く活動を行っています。
Smile Ring
患者さん同士がグループで悩みを分かち合い、解決方法を一緒に考え、一緒に笑いあう、専門医を含めたこころのサポートプログラムです。本音で語れる仲間が得られます。
就労Ring
乳がんの治療と仕事を両立するためのグループワークです。乳がん患者さんが仕事を通して経験する問題について話し合い、経験を共有しながら適切な対処を見出していきます。
Beauty Ring
がん治療に伴う見た目の変化に対して、髪・肌・眉・爪などのそれぞれの美容のプロが、個々の悩みに応じた解決策を伝授します。(聖路加国際病院に通院中の方のみ)
リフレRing
化学療法を受ける方へのヨガ療法を用いたリフレッシュプログラムです。ヨガとグループでの話し合いによる組み合わせで、心身をリフレッシュし、活力を得ることを目指します。
シェイプアップRing
乳がん女性のための運動と栄養指導によるシェイプアッププログラムです。実際に運動を行い、栄養指導を受けることで体重減少と副作用の軽減を目指します。
おさいふRing
がん治療とお金の問題や人生プランを考えるためのグループワークです。グループでの話し合いや学習を通して、「治療と人生のプラン」をサポートします。
病院訪問ボランティア「BCSS」
BCSS:Breast Center Support Service(病院訪問ボランティア)とは、ボランティアとして適切に研修を受けた乳がん体験者の方が、入院中、もしくは退院後、日の浅い乳がん患者さんのために支援活動を行う組織です。ボランティアの方が乳がん患者さんと一対一でお会いして、気持ちに寄り添ってお話をうかがい、同じ乳がんの体験者としてアドバイスをしています。
【BCSSの目的】
- 乳がん手術後の患者さんのさまざまな疑問に答えて、患者さんの不安を軽くする。
- 体験者にしかわからない悩みや不安を分かち合い、退院後の日常生活に役立つ情報を提供する。
- 「一人で苦しまないで。あなたは一人ではありません。」の思いを伝える。
- 患者さんに「少し先の自分」をイメージしてもらう。
- 乳がんときちんと向き合い、以前の自分を取り戻せるようお手伝いをする。
- 元気になって社会復帰しているサバイバーとしての自分を見てもらう。
~プログラムを主催している山内英子先生にお話を伺いました~
患者らしく生きるのではなく、自分らしく生きてほしい
日常の診療の中で多くの乳がん患者さんと接していると、患者さんの悩みやニーズは画一的なものではなく、さまざまであることを実感します。当センターでは私がセンター長に就任した2010年から、乳がん患者さんをトータルでサポートできるサバイバーシッププログラムの整備を目指し、活動を広げてきました。その第一弾として発足したのが若年性乳がんの患者さんを対象としたPink Ringです。その後、個別のニーズに対応する形でプログラムが次々と誕生し、今では7つのサポートプログラムとなり、それぞれ多くの方にご参加いただいています。
インターネットなどにより世の中に多くの情報が交錯する現在、患者さんには、より正確で身近な生活に役立つ生の情報が必要であると感じます。
そこで、当センターの医療従事者が橋渡し役となって、各プログラムの専門家と患者さんをつないでいます。患者さんは悩みや疑問について専門家から直接アドバイスを受けることができます。加えて、少人数での連続したプログラムにより参加者同士が密にコミュニケーションをとりあい、お互いの情報を交換したり、心の支えとなるグループ療法的な役割も果たしています。
また、当センターでは1994年から乳がん体験者の方による、「病院訪問ボランティア」を導入しており、多くの患者さんが体験者同士にしかわからない悩みや不安をボランティアの方と分かち合っています。同じ病から社会復帰し生活する姿を見ることで『少し先の自分』をイメージでき、患者さんの大きな励みになっています。
私は、多くの方が乳がんと診断された後、患者らしくしなければという気持ちで苦しんでいらっしゃる姿を目の当たりにしました。病になったからといって、患者らしくならなくていい、あなたらしく生きてほしい。患者さんには、自分らしさを見失わずに、病と共に自分の人生を歩んで行ってほしいといつも願っています。
(2015年10月取材)
山内先生のメッセージが綴られた著書
あなたらしく生きる
山内英子(著)
日本キリスト教団出版局 2015年